人生の最終段階を自分らしく ― リビング・ウィルという考え方
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超高齢社会を迎えた現在、「人生の最終段階をどう迎えるか」は、誰にとっても無関係ではないテーマとなっています。
医療の進歩により、さまざまな治療によって命を支えることが可能になった一方で、単に“長く生きる”だけではなく、「その人らしく生きること」を大切にしたいという考え方が、より重視されるようになってきました。
当院副院長、福枝医師がこのたび、リビング・ウィル受容協力医師として認定されました。
今回は、この「リビング・ウィル」という考え方について、少しご紹介したいと思います。
リビング・ウィルとは
リビング・ウィルとは、人生の最終段階において、どのような医療やケアを望むのかを、あらかじめ自分の意思として示しておくことです。
たとえば、将来、病気や事故などによって自分の意思を伝えることが難しくなった場合、
・どこまで治療を希望するか
・心肺停止時に心肺蘇生を希望するか
・人工呼吸器や胃ろうなどの医療を望むか
・苦痛を和らげることを優先したいか
・最期をどこで過ごしたいか
といった本人の考えを家族や医療者に伝えるための大切な手がかりになります。
そしてそれは、一度決めたら絶対に変えられないものではなく、年齢や体調、生活環境の変化に合わせて、何度でも見直してよいものです。
また、リビング・ウィルは「治療をやめるためのもの」「死を選ぶためのもの」ではありません。
“自分は何を大切にして生きたいのか”を考え、その思いを周囲と共有するためのものです。
人生の最終段階の考え方は人それぞれ
人生の最終段階における考え方は、人によって大きく異なります。
・できる限り治療を続けたい
・苦痛をできるだけ少なくしたい
・家族との時間を穏やかに過ごしたい
・住み慣れた自宅で過ごしたい
・食べる楽しみを最後まで大切にしたい
どれが正しい・間違っているということはありません。
本人がこれまでどのように生き、何を大切にしてきたかによって、望む医療やケアは自然と変わってきます。
だからこそ、本人の思いを周囲が知っていることが、とても重要になります。
実際、本人の意思が分からないまま、ご家族が大きな決断を迫られる場面も少なくありません。
「本人はどうしたかったのだろう」
その迷いや後悔を少しでも減らすためにも、元気なうちから考え、話し合っておくことには大きな意味があります。
ACP(アドバンス・ケア・プランニング)という考え方
近年、リビング・ウィルとあわせて注目されているのが、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)です。
ACPとは、将来の医療やケアについて、本人が大切にしている価値観や希望を家族や医療者と繰り返し話し合い、共有していく取り組みのことを指します。
厚生労働省では「人生会議」という愛称でも紹介されています。
ACPで大切なのは、「書類を書くこと」だけではありません。
日頃から話し合いを重ねることで、
・本人の思いがより深く理解される
・家族が判断に迷ったときの支えになる
・医療者が本人らしい医療・ケアを選択しやすくなる
・本人自身も、自分の人生観を整理できる
といった大きな意味があります。
リビング・ウィルは、そのACPの中で、本人の意思を“形”として残す方法の一つとも言えます。
難しい問題だからこそ、元気な今考える
人生の最終段階について考えることは、決して簡単なことではありません。
「まだ元気だから」「縁起でもないから」と、つい後回しにしてしまいがちなテーマでもあります。
しかし実際には、急な病気や事故によって、自分の意思を伝えられなくなる可能性は誰にでもあります。
だからこそ、元気な今だからこそ、落ち着いて自分の考えを整理し、家族と話し合うことが大切です。
それは、“もしもの準備”というだけではなく、
「自分はこれからどんな人生を大切にしたいのか」を見つめ直す機会にもなるのではないでしょうか。
本人の「最も幸福なカタチ」を大切に
当院では、病気だけを見るのではなく、その人の生き方や価値観を大切にする医療を心がけています。
リビング・ウィルやACPは、「こうしなければならない」というものではありません。
本人が最も幸福だと感じるカタチを、周囲と共有するための手段です。
そして、その思いに寄り添いながら、患者さま・ご家族と一緒に考えていくことも、私たち医療者の大切な役割だと考えています。
人生の最終段階の医療やケアについて、気になることや不安なことがありましたら、どうぞお気軽に当院の医師・スタッフへご相談ください。
著:事務部/T